回路理論講義ノート(大石進一)

2013年度早稲田大学基幹理工学部応用数理学科3年生と基幹理工学部共通科目回路理論(大石)の講義ノートを置きます。教科書は2013年4月初旬発行の

大石進一,回路理論,コロナ社(2013)

を使います.講義は前半の45分は理論編でこの教科書に従って講義します.後半の45分は回路の実験です.様々な回路を毎回作っていきます.そのテーマとしては基本的には講義した内容を中心としますが,それだけに限らず上記教科書の全般の内容を使うこともあります.一人に一つ回路を作っていきますが,半期に一回はグループで作品を作って競技(コンテスト)を行うことを考えています.

受講している学生へ:レポートの提出はコースナビからお願いします.レポートはTeXで書いてpdfにして,TeXソースや図のファイルとともに提出してください.

TeXについて

2012年の学生のTeXを見てTeXのソースがあまりきれいに書けていない人が多いことに気がつきました.なれていくと上手になるのでだいじょうぶなのですが,TeXはまねるのがよいと思います.不思議なのはコンパイルが通らないと思われるのにpdfが作れていることでした.TeX文書作法ものせることにします.

---式の書き方の例---

以上から,このチャネルに流れる電流$i_d$は
¥begin{equation}
i_d=-q(x)¥mu WE(x)
¥label{Cox}
¥end{equation}
で与えられる。ただし,$¥mu$は電荷の移動度で,$W$はチャネル幅で
ある。ただし,$E(x)=-¥frac{dv(x)}{dx}$はチャネルの点$x$における電場である。
ここで,式¥ref{Cox}を$x$について$0$から$L$まで積分すると
¥[
¥int_0^Li_ddx=Li_d=-¥int_0^L¥mu Wq(x)E(x)dx
¥]
となる。
¥begin{eqnarray*}
&&¥int_0^Lq(x)E(X)dx
=C_{ox}¥int_0^L (v_{gs}-v(x)-V_t)¥frac{dv(x)}{dx}dx¥¥
&=&C_{ox}¥int_0^L (v_{gs}-v(x)-V_t)dv(x)
=C_{ox}¥left¥{(v_{gs}-V_t)v_{ds}-¥frac{1}{2}v_{ds}^2¥right¥}
¥end{eqnarray*}
より

---例はここまで---

ここにあるように,文中の数式は$$で挟む.また,式には何種類かの記述法があり

\begin{equation}

\end{equation}

で挟むと式番号が付される.したがって,\labelで式にニックネームをつけ,\refで引用することができる.

\[

\]

で挟むと式番号がつかない.また,改行する式は

\begin{eqnarray}

\end{eqnarray}

ではさむ.これは教科書の1節であるので,できあがりはその部分を参照されたい.

TeXの関連はTeX Wiki を参照すると便利である.松坂大学の奥村氏の管理しているTeX情報で信頼性がある.googleでtexと検索するとすぐに見つかる.windowsにTeXをインストールするという項目を読むと,

「Microsoft Windows に TeX をインストールする場合,TeX ディストリビューションの選択肢が複数存在します.初心者の方は W32TeX がおすすめです.W32TeX のインストールについては AbTeXInstaller - TeX Wiki を参照してください.」

とあります.そこの指示通りにTeXインストーラ 3を利用して近畿大学の角藤先生のwebで公開されている日本語化TeXシステム等をインストールするのが便利です。

LaTeX2eの文書を書くのは基本的にEditorを使います。基本的にWindowsに最初からついてくるEditorは使い物にならないからです。Editorはフリーのものでもよいものが多くなりました。私はWindowsではEmEditorにTeX用のプラグインを導入して使っていました。また、LinuxではTexmaker、MacではTexshopを使っています。Wintpicは図を書くのに便利です.

TeXの使いかたはwebを見てほしい.例えばTeX WikiにもTeX入門というページがある.jsarticleというクラスはとてもよいが,一般的ではない.jarticleとかarticleにするのが一般である.

講義シラバス

回路理論とは電磁気学を仮定して,回路を定義し,その上でコンピュータを始めとする様々な人の役に立つ回路の本質を解析するための理論である.ここでは,まず,マックスウェルの方程式の説明を行う.これをいわば公理として仮定し,後は論理的に回路理論を展開していく.電荷密度と電流密度関数によって,電磁気学的なすべての要素が決まるというのがマックスウェルの方程式の意味するところである.本講義では,集中定数モデルという回路モデルを扱う.電磁波による信号伝搬の速度が非常に速く,扱っている回路内の電磁的信号伝搬遅延が無視できるというモデル化が集中定数回路モデルである.これによって,集中定数回路は一般に非線形の常微分方程式で記述されるようになる.

したがって,この非線形の常微分方程式の解析が回路解析の主要なテーマとなる.これは,関数をベクトルとして扱う関数解析と呼ばれる数学的な理論によって統一的に扱うことができる.本講義では関数解析の基礎について述べる.関数を無限次元のベクトルとみなすというのが関数解析の立場である,すなわち,関数解析は無限次元ベクトルを扱う線形代数であると考えることができる.これは慣れてしまえば易しいが実に強力な解析ツールになる.本講義では,関数解析を通して回路理論を見通すという立場を取る.関数解析は始めて習う学生も多いので,関数解析的議は数学的に丁寧に解説することで,本書で関数解析を学ぶことができるように配慮した.

この立場から,非線形回路の直流解析(動作点の決定)や交流解析はガレルキン法と呼ばれる非線形解析の最低次の近似であるという
ことを示す.交流解析では波形の歪みは扱うことができないが,ガレルキン法を用いると精度を上げていけるので波形の歪みも扱うことができる.発振回路の発振条件は従来バルクハウゼンの条件がよく知られているが,これは発振のための必要条件に過ぎず,力学系理論のホップフ分岐理論に基づき,2次の高調波の振動成分まで考慮することで,安定なリミットサイクルの存在まで示せる十分条件を導けることを述べる.これは従来の回路理論や電子回路の教科書に記述のない,本講義の特色になっている.

回路理論の神髄は工学と技術の総合芸術である電子回路の理論であると思われるので,本講義は電子回路を非線形回路理論の立場から解析しているすなわち,ガレルキン法によれば直流解析や交流解析が自然に理解できることと更に高次の近似を得るための方法となることを述べる.計算機援用証明という立場からは,近似解の近くに真の解の存在示す理論がある.これはニュートン法の収束定理によるが,本書を通じて非線形回路の解析はダイナミックスも含めて関数空間上のニュートン法を考えることに帰着するという統一的な視点が貫かれている.このような立場に立てば,(電子)回路解析は見通しのよい数学的な解析が可能であることを理解して頂ければ本講義の役割は十分果たされたといえる.

板書による講義の内容はつぎのようである.

1.集中定数モデルとキルヒホッフの法則(4回程度)
  集中定数回路モデル,集中定数素子モデル,電力,キルヒホッフの法則

2.線形抵抗回路(5回程度)
  回路理論の用語とKCL,KVLの数,枝電流法,節点解析法,回路のグラフ,線形受動回路の諸定理

3.非線形抵抗回路(5回程度)
  非線形抵抗素子,非線形抵抗回路方程式,MOSFET回路,差動増幅回路,演算増幅回路

4.線形回路ダイナミックスの解析(6回程度)
  回路の状態方程式,線形回路の状態方程式の基本解行列,線形回路の状態方程式の初期値問題の解,線形回路の状態方程式の特解,共振回路の性質  

5.フィルタ回路(6回程度)
  2次の受動フィルタ,周波数変換,リアクタンス回路の合成,与えられた正実関数を伝達関数とする回路の合成,能動フィルタ,インダクタンスシミュレーション

6.非線形回路のダイナミックス(4回程度)
  ガレルキン法の概要,ガレルキン法による増幅回路の定常解析,発振回路とホップフ分岐,周波数領域のホップフ分岐

実験項目は前期はLED・モータードライブ回路,緩和振動回路,DC-DCコンバータ回路などを始めとしてライントレーサを作成する予定.


©大石進一

2013年4月1日改訂